ウルフ・アロン、戦術に変化“ゼロウルフタイム”「ここぞ」の場面で強さ発揮する理由
報道ステーション
[2024/02/13 14:18]
![](/articles_img/900001521_1920.jpg)
4日、柔道グランドスラム・パリ。投げて、投げて、投げまくって優勝した男子100キロ級のウルフ・アロン選手が、パリ・オリンピック代表を決定的なものとしました。
■東京オリンピック以後は苦戦…
「今回、パリで世界一とりました」
「なんとか」
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「危なかったですね」
「危なかったですね。ギリギリ」
ウルフ選手といえば、東京オリンピックでの金メダル。試合時間4分を超えて延長戦へ入ると、無類の強さを発揮。そのため延長戦は、“ウルフタイム”と呼ばれました。
しかし、東京オリンピック以後は国内大会で1度優勝しただけで、苦しんできました。
去年4月の取材では、次のように話していました。
「挫折の時間は、どんなものになっていますか?」
「挫折を乗り越えれば、挫折をする前の自分より強くなれている。成長するための一つの試練だと考えて、行動するようにしています」
その後も調子が中々上がらず、去年12月のグランドスラム東京では7位。他の階級が全員代表を決めていくなか、100キロ級のみ持ち越しとなってしまいました。
そこから今回の優勝まで、わずか2カ月。崖っぷちのなか、なぜ勝つことができたのでしょうか?
■いつもと違う戦い方“ゼロウルフタイム”
今大会で気になったのは、いつもと違うウルフ選手の戦い方でした。
「ウルフさんらしくないなと思っちゃったんですよ。“ゼロウルフタイム”ですか、どうなっているんですか?」
「東京オリンピックが終わってから、『ウルフタイム=延長戦強い』と言われてはいたんですけど。逆に、自分もそれを考えすぎちゃっていて。延長戦のことを考えて試合をしてしまうと、試合の入りが甘くなるんですよ」
「周りから東京オリンピックはそうだっただけに、周りから“ウルフタイム”と言われることで、惑わされちゃった感じがあるんですか?」
「惑わされたというよりも、自分のスタミナを過信しすぎた。最初から仕留めにいくのは、昔からやっていたんですけど。それがなくなって、“ウルフタイム”に入っていただけで、これが本来の僕のやり方なのかなと思いました」
「全開ウルフ」
「はい、全開ウルフ(笑)」
実は、今大会6試合を戦って、延長戦はゼロ。そこには、戦術の大きな変化があったのです。
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■絶体絶命も…“周到なプラン”で勝利■絶体絶命も…“周到なプラン”で勝利
もうひとつ気になったことがありました。それは唯一のピンチとも言えた3回戦。残り50秒を切って、先にポイントをとられてしまいます。
この大会がラストチャンスと言われたなかで、どう思っていたのでしょうか?
「やばいと思ったんですよ、僕は見ていて。自分ではどうでしたか?」
「プランニングはしっかりしていたので。相手の動画を研究していく中で、体幹がしっかりしていて内股で飛んでいる映像はあまりなかったのですが、小外刈りで負けてる映像は結構あったんですよ」
絶体絶命の中でウルフ選手は、小外刈で逆転の一本勝ち。実は、小外刈で投げるために“周到なプラン”を考えていました。そのプランとは…。
「内股っていうのがこっち(前に)投げる技。これを何回か見せることによって、相手が後ろの技に弱くなるんです。耐えようとして、後ろに重心をかけようとするので」
「どうしても前にいきたくないから、相手は(後ろ体重に)なりますね」
「それ(内股)を試合の中ずっと見せておいて、最後の最後、(小外刈りで)投げれるみたいな。そういう仕留め方でした」
「僕は『内股(前に投げる技)きたぞ!』って、思っているわけですよね」
「そうです。なのでずっと後ろに体重をかけてくるんで、内股を狙いながら…(内股から小外刈の動作)」
「あっ、そのままいく」
「そのままいきます」
実際の試合を見てみると、最後も内股と見せかけて、小外刈を決めていました。このプランを考えていたからこそ、焦らなかったんですね。
■ウルフ選手「“これで準備完了”というのはない」
崖っぷちからパリ・オリンピックへの切符をほぼ手中にしたウルフ選手。「ここぞ」の場面で強さを発揮するのには、理由があります。
「準備は、やりすぎて損はないなと思っていて。“これで準備完了”というのはない」
「人生の中で色々な崖っぷちがあって、そこをことごとくクリアしてきた。自分なりの思いとして言えることがあるとしたら?」
「崖っぷちにいるっていうことをしっかり受け止めることが、まず大事だと思います。崖っぷちにいるとなると、そこから目を背けたくなるのが人間だと思うんですよ。なぜ、自分が崖っぷちにいるのか、色んな角度から考えれば、やっていくべきものが見えてくるし、結果としてもつながってくるんじゃないかなと思います」
(「報道ステーション」2024年2月12日放送分より)