来訪者が落とすカネは年間1兆円 コロナはねのけ市場拡大 米国6600キロ第25回

[2024/03/02 10:00]

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 新型コロナウイルスによるダメージなどなんのその。パームスプリングスの来訪者はコロナ前を超えて史上最高に。使ったカネは年間1兆円だ。スケールが違う。

(テレビ朝日 デジタル解説委員 名村晃一)

 ニューヨークからロサンゼルスまで、途中いくつもの町に立ち寄りながら6600キロを走破して見えた米国のいま。毎週土曜日と日曜日に配信しています。

鳥のさえずりで目を覚ます 2泊するにふさわしい町

パームスプリングスでの2泊目の宿ホテル・デルマルコス=筆者撮影

 旅15日目の10月18日、鳥のさえずりで目が覚めた。パームスプリングスは砂漠の中のリゾート地だが、西方にあるサンジャッキント山(標高3032メートル)から連なる山の麓にあるため、目にする自然は多岐にわたる。

 旅も最終盤に近づいていた。ニューヨークを出て、これまで同じ町に2泊したことはなかった。一度ぐらいは丸1日、同じ町で過ごしてみたかった。パームスプリングスは2泊するのにふさわしい町だ。

 宿泊していたスリー・フィフティー・ホテルは予約でいっぱいで延泊はできなかったため、朝から旅行サイトでホテルを探した。パームスプリングスには、豪華なリゾートホテルだけでなく、大資本ではない独立系のブティックホテルが多くある。ブティックホテルはタイミングがよければお得に予約できることがあり、2泊目もブティックホテルを狙った。

ブティックホテルが人気 「隠れ家」はモダンな建物

ホテル・デルマルコスは、「建築の町」として知られるパームスプリングスで多くの建物を手掛けたウイリアム・コディがデザインした=筆者撮影

  スリー・フィフティー・ホテルのすぐ近くにあるホテル・デルマルコスが手ごろな値段だったので予約を入れた。部屋数は17。1947年創業で、20世紀のモダン建築が地域のシンボルにもなっている。ここもスリー・フィフティー・ホテルと同じビバリーヒルズのブティックホテルグループ、カークウッド・コレクションズが2023年に買収した。カークウッド・コレクションズはこの時期に、計3カ所の歴史あるブティックホテルを買収しており、巨大ホテルチェーンとは一線を画したホテルライフをより浸透させようとしている。ホテル業界の動向は地元経済を左右するだけに、ローカルメディアはビジネスニュースとして大きく扱った。

パワーある観光地 リゾート産業の出資攻勢は必然

パームストリートのダウンタウンのメインストリートを1本外れると静寂が広がる。人気のブティックホテルが多く集まる=筆者撮影
パームスプリングスにあるゲイ向けの洋品店。パームスプリングスは同性愛やジェンダーへの理解が深い町として知られ、多くの同性愛者らが集う=筆者撮影

 パームスプリングスとその周辺は、リゾート地として成長が著しい。地元観光協会によると2022年の来訪者数は過去最多の約1410万人で、前年より約130万人増加した。新型コロナウイルスによるダメージを、あっという間にはねのけ、コロナ前よりも市場を拡大させた。2023年のデータはまだ明らかになっていないが、パームスプリングス国際空港の2023年の利用者数が約323万人(前年比で約9%増)で過去最多になるなど、拡大ペースは続いている。観光産業が出資攻勢を強めるのは当然である。

 ちなみに日本を訪れた外国人観光客の数は、新型コロナの影響が大きかった2022年は約383万人で、パームスプリングスの来訪者数の約27%にとどまった。新型コロナの影響がほぼなくなった2023年は約2500万人となりパームスプリングスを大幅に上回ったが、カリフォルニア州の1地域にすぎないパームスプリングスに、日本の半数以上の来訪者があることを考えると、パームスプリングスがいかに魅力のある観光地であるかが分かる。

 そのパームスプリングスへの来訪者が2022年にこの地域で使ったカネは71億ドルにのぼる。この年の円相場の年間平均値1ドル=約132円で計算すると約9372億円となり1兆円近い。現在の水準の1ドル=約150円で計算すれば約1兆650億円で1兆円を超す。富裕層に支持されるパームスプリングスには莫大なカネが落ちる。

シンボルは風車 高速道路の両側にそびえる

インターステート10(I-10)の両側に立ち並ぶ風力発電用のタービン=筆者撮影

 ラスベガスのネオンサインやサンタモニカ丘陵のハリウッドサインなど観光地にはシンボルが存在するが、パームスプリングスのシンボルは風車だ。風力発電用のタービンである。

 ホテルが決まり、周辺を車で回ったが、インターステート10(I-10)をロサンゼルス方向に走ると、両サイドに風車が林立していた。

 前日は反対側の南西方向からパームスプリングスに入ったので、その時は目に入らなかったが、ロサンゼルス方面からパームスプリングスを目指して来ると、到着直前に大量の風力タービンが出迎えてくれる。

一時5000基が稼働 技術革新で減少し現在は2100に

タービン翼は3枚が最も効率的だという。寿命は30〜35年=筆者撮影
パームスプリングス周辺では風車を見て回る観光ツアーもある=筆者撮影

 テキサス州などのランチ(放牧場)にも設置されていたが、ここは密度が違う。「ここにも、あそこにも」という表現では言い表せない数の風車が目に飛び込んでくる。

 この地に風力タービンが設置されたのは42年前の1982年。最初は8基だったが、現在は2100基ある。この間、技術が向上し、風力タービン1基当たりの発電能力がアップしたため、一時は約5000基あった風力タービンの数は減少した。

 北にそびえるサンゴルゴニオ山(標高3506メートル)と南のサンジャッキント山の間にはさまれ、時速15〜20マイル(風速6.7〜8.9メートル)の風が吹き抜けるという。風力発電には理想的な土地だ。

厨房から楽しそうな会話が聞こえるイタリア料理店

イル・ジャルディーノ・リストランテ・イタリアーノのブルスケッタ=筆者撮影
ラビオリにはたっぷりとチーズを「追いがけ」した=筆者撮影

 動き回っているうちに、日が暮れてしまった。プールサイドで「何もしない時間」を楽しむ性分ではないことが、自分でもよく分かった。

 夕食はイタリア料理にした。ダウンタウンにあるイル・ジャルディーノ・リストランテ・イタリアーノはシチリア島出身の夫婦が営む。ミラノで長くレストランを経営した後、2015年にパームスプリングスに移り住み、出店した。

 パームスプリングの町に溶け込んでいる。厨房から楽しそうな会話が聞こえてきた。そういう店は味もいいはずだ。注文したブルスケッタとラビオリは家庭料理そのもので、心穏やかに味わうことができた。

 イル・ジャルディーノは古い店ではないが、米国には知られざるイタリア料理の名店が各地にある。味にうるさい同胞(イタリア系移民)が各地で店を「鍛える」からだ。大都市の有名イタリア料理店とは「ジャンルが違う」イタリア料理だ。そういうイタリア家庭料理店ばかりを食べ歩く旅をしてみたいと思う。

米テレビ界を代表するリアリティー番組の舞台を見に行く

カラバサスの地名はスペイン語の「Calabaza(カボチャ)」が語源=筆者撮影

 旅16日目の10月19日、パームスプリングスを出てI-10を西に向かった。最終目的地のロサンゼルスに直接向かうなら、このまま走ればいいが、ロサンゼルスよりも西にあるカラバサスという町に立ち寄りたかった。米テレビ界を代表する人気リアリティー番組の舞台だ。かなり「ミーハー」だが、それだけの理由でこの町を見たいと思っていた。

 インターステート210(I-210)で、ロサンゼルスを迂回する。大学フットボールの全米王座決定戦(ローズボウル)が開かれるパサデナでカリフォルニア州道134に入ると、やがて右手にウォルト・ディズニー、左手にワーナー・ブラザーズのスタジオが見えてきた。一気に華やかさが増す。州道134はそのままU.S.ハイウェイ101に合流した。しばらく走るとカラバサスに到着した。

  • パームスプリングスでの2泊目の宿ホテル・デルマルコス=筆者撮影
  • ホテル・デルマルコスは、「建築の町」として知られるパームスプリングスで多くの建物を手掛けたウイリアム・コディがデザインした=筆者撮影
  • パームストリートのダウンタウンのメインストリートを1本外れると静寂が広がる。人気のブティックホテルが多く集まる=筆者撮影
  • パームスプリングスにあるゲイ向けの洋品店。パームスプリングスは同性愛やジェンダーへの理解が深い町として知られ、多くの同性愛者らが集う=筆者撮影
  • インターステート10(I-10)の両側に立ち並ぶ風力発電用のタービン=筆者撮影
  • タービン翼は3枚が最も効率的だという。寿命は30〜35年=筆者撮影
  • パームスプリングス周辺では風車を見て回る観光ツアーもある=筆者撮影
  • イル・ジャルディーノ・リストランテ・イタリアーノのブルスケッタ=筆者撮影
  • ラビオリにはたっぷりとチーズを「追いがけ」した=筆者撮影
  • カラバサスの地名はスペイン語の「Calabaza(カボチャ)」が語源=筆者撮影

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